四国——愛媛・香川・徳島・高知の4県からなるこの地域は、瀬戸内海と太平洋に囲まれた日本の中では独自の地理的・文化的特性を持つ島です(本州・九州とは橋で繋がっていますが)。
しかし「独自性」という美名のもとに、四国は深刻な人口減少という現実に直面しています。4県を合わせた人口は約380万人(2020年国勢調査)で、1990年代をピークに減少が続いています。特に高知県・徳島県の人口減少は著しく、「消滅可能性都市」が両県に集中しています。
本記事では、高松市・松山市・丸亀市・今治市・徳島市・高知市のコンパクトシティ政策を詳しく解説し、四国特有の地理的・文化的条件がコンパクトシティへの移行をどう妨げているかを分析します。
四国の人口減少——本州から切り離された縮小の最前線
四国の人口減少には、他の地方とは異なる固有の要因があります。
四国特有の「島嶼性」という課題
四国は本州・九州と橋(瀬戸大橋・明石海峡大橋・しまなみ海道)で繋がっているとはいえ、心理的・物理的に「遠い」という感覚が都市間アクセスに影響しています。関西の若者が香川や愛媛に就職することは少なく、四国の若者が大阪・東京に流出するという一方的な人口移動が続いています。
また四国内の都市間を結ぶ鉄道インフラが脆弱であることも問題です。四国を横断する高速鉄道はなく、新幹線も通っていません(四国新幹線は構想段階)。これがコンパクト・プラス・ネットワークの実現を困難にしています。
四国の「ブランドに頼る」心理
うどん・お遍路・みかん・かつおのたたき——四国は全国的な食文化・観光ブランドを持っています。しかしこれらの強力なブランドが、「四国には魅力があるから大丈夫」という根拠なき楽観論を支え、構造改革を先送りにする文化的素地になっていると言えます。
高松市のコンパクトシティ——四国の玄関口が抱える空洞化問題
高松市は香川県の県庁所在地であり、四国最大の都市圏(高松都市圏)の中心都市です。人口は約41万人で、四国4県の県庁所在地の中では最大規模です。
高松市の「コンパクト+ネットワーク都市」ビジョン
高松市は「高松市立地適正化計画」において、高松駅・高松城周辺を都市機能誘導区域として設定し、コンパクトな中心市街地への機能集約を目指しています。特に高松市は、琴平電鉄(ことでん)・JR高徳線・予讃線の鉄道路線が存在することから、鉄道沿線への居住誘導が政策の核となっています。
高松市の中心市街地は、かつて「マルナカ」「天満屋」などの大型商業施設が立地し、四国最大のショッピング街として栄えていました。しかし郊外への商業移転が進み、中心部の空洞化が深刻化しています。高松市はこの中心市街地の再活性化をコンパクトシティ政策の中核に位置づけています。
「うどんタウン」の実態——食文化ブランドの光と影
高松市(香川県)は「うどん県」として全国的なブランドを確立しています。しかしこの食文化ブランドは、「うどんがある限り香川は大丈夫」という根拠のない安心感を生み、人口減少・財政逼迫という現実への直視を妨げる側面があります。
実際のデータを見れば、うどんブランドは香川県の人口減少を止めるどころか、減少は着実に続いています。食文化は観光・地域経済に貢献しますが、高齢化による医療・介護コストの急増、老朽インフラの更新、公共交通の維持コストといった構造的問題を解決しません。
松山市のコンパクトシティ——路面電車の街が描く集約ビジョン
松山市は愛媛県の県庁所在地であり、四国最大の都市(人口約50万人)です。日本最古の温泉・道後温泉や松山城を擁する観光都市でもあります。
松山市電(伊予鉄道)とコンパクトシティ
松山市の最大の強みは、現役の路面電車(伊予鉄道市内電車)が走り続けていることです。1895年開業の伊予鉄道市内電車は、JR松山駅・松山城・道後温泉を結ぶ路線を維持しており、コンパクトシティにとって不可欠な公共交通インフラとして機能しています。
松山市は「まつやまコンパクト+ネットワーク実現計画」において、伊予鉄道の電停周辺を居住・商業の誘導区域として設定しています。路面電車沿線への居住誘導と、路面電車の利用促進を一体的に推進する方向性は正しいと言えます。
松山の「道後温泉依存」という課題
松山市の観光の柱・道後温泉は、2019年から大規模な保存修理工事が続いており、観光客への影響が続いています。しかし松山市のコンパクトシティ政策にとって重要なのは、道後温泉を軸とした観光から脱却し、「市民が住み続けたい街」としての機能を充実させることです。
松山は四国の中では比較的恵まれた規模(50万人)を持つ都市ですが、この規模を維持するためには今後10〜20年の積極的な居住誘導が不可欠です。観光が盛んなうちに、コンパクトな都市構造への移行を進めることが賢明な選択です。
| 政策要素 | 現状 | 評価 |
|---|---|---|
| 公共交通 | 伊予鉄道市内電車が現役・一定の利用者確保 | ◎ 強み |
| 居住誘導計画 | 電停周辺への誘導策あり | ○ 方向性は正しい |
| 中心市街地 | 銀天街・大街道商店街は一定の集客維持 | △ 空洞化傾向 |
| 道後温泉 | 工事中だが観光拠点として重要 | △ 依存リスクあり |
丸亀市のコンパクトシティ——香川の中核都市が直面する現実
丸亀市は香川県西部に位置する人口約11万人の都市です。丸亀城・うちわの産地として知られ、高松市との間で香川県の二核構造を形成しています。
丸亀市の立地適正化計画
丸亀市は「丸亀市立地適正化計画」を策定し、丸亀駅周辺を核とした都市機能集約を目指しています。丸亀城と駅が近接しているという地理的条件を活かし、歴史的・文化的核心エリアとしての中心市街地の再生を狙っています。
丸亀市の課題は、高松市・坂出市との競合です。高松市という四国最大の都市に近接しているため、医療・大規模商業などの高次都市機能は高松市に依存しがちです。丸亀市独自の機能をどう定義し、高松市との役割分担を明確にするかが、コンパクトシティ政策の鍵となります。
今治市としまなみ海道——瀬戸内小都市の縮小政策
今治市は愛媛県北部に位置する人口約15万人の都市です。タオル産業の中心地として知られ、しまなみ海道(西瀬戸自動車道)で広島県尾道市と繋がっています。
今治市のコンパクトシティへの取り組み
今治市は「今治市立地適正化計画」において、今治駅・今治港周辺を核とした居住誘導を進めています。しまなみ海道を活かしたサイクリング観光が近年注目されていますが、それが都市構造の改善に直結しているわけではありません。
今治市の人口は2000年代以降、一貫して減少しており、市内各地に空き家が増加しています。タオル産業の衰退も加わり、地域経済の縮小は深刻です。「しまなみ海道とサイクリングで観光再生」というビジョンは魅力的ですが、住民の生活基盤を支えるコンパクトな都市構造の整備は別途必要です。
徳島・高知のコンパクトシティ——四国最小都市圏の挑戦
徳島県・高知県は、四国4県の中でも特に人口規模が小さく、コンパクトシティ政策の難しさが際立つ地域です。
徳島市——阿波踊り観光の影で進む空洞化
徳島県の県庁所在地・徳島市は人口約25万人です。阿波踊りという全国的な観光ブランドを持ちますが、市内の中心市街地空洞化は深刻です。かつての繁華街・新町橋周辺は空き店舗が目立ち、徳島市の立地適正化計画も実施効果が見えていません。
徳島市の特徴は、大阪・神戸との距離が近い(高速バスで約2時間)ことから、「サテライトオフィス」「テレワーク移住」先として注目されたことです。しかし実際の移住実績は期待を下回り、「阿波踊りとテレワーク移住で再生できる」という楽観論は現実とかけ離れています。
高知市——「坂本龍馬の街」が直面する過疎化の現実
高知県の県庁所在地・高知市は人口約33万人。坂本龍馬・よさこい祭りというブランドは全国的知名度を持ちます。しかし高知県全体の人口密度は全国でも最低レベルであり、中山間地域の過疎化は壊滅的状況に近づいています。
高知市は路面電車(とさでん交通)が現役で走っており、松山市と同様に公共交通インフラを活かしたコンパクトシティを目指しています。しかし高知市の郊外開発は止まらず、市内各所に大型ショッピングモールが立地し、中心市街地の衰退が続いています。
SNSに見る四国の「うどん文化」「八十八ヶ所」感情論
四国のコンパクトシティ論議において、SNSには四国特有の文化ブランドを盾にした感情論が目立ちます。
四国コンパクトシティ政策の比較と教訓
四国4県の主要都市のコンパクトシティ政策を比較整理します。
| 都市名(県) | 人口規模 | 公共交通の状況 | 政策の特徴 | 主な課題 |
|---|---|---|---|---|
| 高松市(香川) | 約41万人 | ことでん・JR(一定維持) | 四国最大級の都市機能集約 | 郊外開発抑制できず・うどん依存 |
| 松山市(愛媛) | 約50万人 | 伊予鉄路面電車(強み) | 電停周辺居住誘導 | 道後温泉依存・郊外化継続 |
| 丸亀市(香川) | 約11万人 | JR予讃線 | 丸亀城周辺の歴史的核を活用 | 高松市との機能競合・役割分担不明確 |
| 今治市(愛媛) | 約15万人 | JR予讃線・バス | しまなみ海道・タオル産業と連携 | 産業依存・観光と生活基盤の乖離 |
| 徳島市(徳島) | 約25万人 | JR(利用低調) | テレワーク移住促進との連携 | 阿波踊り依存・中心市街地空洞化 |
| 高知市(高知) | 約33万人 | とさでん路面電車(弱体化) | 路面電車沿線への居住誘導 | 高知県全体の過疎化・郊外モール増加 |
四国新幹線問題——「新幹線が来れば解決する」という幻想
四国のコンパクトシティ論議において、たびたび「四国新幹線を実現すれば人口流出が止まる」という主張が登場します。確かに四国新幹線の構想(岡山〜高松〜松山〜高知など)は存在し、国土交通省による基本計画路線にも指定されています。しかし新幹線整備がコンパクトシティ政策の代替になるという発想は、問題の本質を見誤っています。
新幹線は都市間の移動を速くしますが、それは同時に「高松・松山から大阪・東京への人口流出を加速させる」というリスクを持ちます。地方に新幹線が通ると、地元から大都市へのアクセスが便利になり、むしろ人口流出が加速したという事例(新幹線開業後の在来線沿線都市の衰退)は全国に存在します。
四国にとって必要なのは、外部との接続を高める新幹線よりも、四国内部の都市間を結ぶ公共交通ネットワークの整備と、各都市のコンパクトシティ化の推進です。新幹線という「夢の解決策」を待ち続けながら、内部の都市構造改革を先送りにすることは、最悪の選択肢です。
四国の「橋を渡れない」感覚とコンパクトシティへの影響
四国と本州を繋ぐ本四架橋(瀬戸大橋・明石海峡大橋・しまなみ海道)の通行料金は、ETC割引適用後も高速道路の中では割高です。この「橋のコスト」が四国の物流・観光・交流にとって障壁となっているという批判は以前からあります。
コンパクトシティの観点から見ると、本四架橋の料金問題よりも、四国内部での都市間移動の利便性向上の方が優先度が高いと言えます。高松〜松山間をより速く便利に移動できる鉄道網、徳島〜高知間の交通改善——これらは四国内のコンパクト・プラス・ネットワークを実現するための基礎インフラです。
四国の教訓:文化ブランドをコンパクトシティの武器に変えよ
四国のコンパクトシティ論議で繰り返される「うどん・お遍路・龍馬・阿波踊り」といった文化ブランドへの訴えは、感情論としては理解できます。しかし本当に四国の文化を守るためには、住民が実際に生活を続けられる都市インフラが必要です。
うどんが美味しい街、お寺が点在する巡礼の道、龍馬が歩いた土佐路——これらはすべて「人が住み続ける地域」があってこそ維持できます。コンパクトシティへの移行は文化の否定ではなく、文化を未来に繋ぐための都市基盤の整備です。この発想の転換ができるかどうかが、四国のコンパクトシティ政策の成否を決めます。